最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)2224号 判決 1953年4月16日
主文
原判決並びに第一審判決を破棄する。
本件公訴事実中物価統制令違反の罪につき被告人鶴山菊治郎、同三好享慈を、同物価統制令違反幇助の罪につき被告人鶴山菊治郎、同菅井正、同清水平五郎をそれぞれ免訴する。
被告人鶴山菊治郎、同杉村三郎、同清水平五郎に対する収賄被告事件を福島地方裁判所平支部に差し戻す。
理由
仙台高等検察庁検事長代理の上告趣意について。
本件第一審第七回公判期日において、検察官は、鈴木源七、原田庄一、山岡三男治等の検察官又は検察事務官の面前における供述調書を刑訴三二一条一項二号により証拠調の請求をしたところ、弁護人は、これが証拠調をすることに異議を述べ、裁判官は、右各書面は相当法条(刑訴三一九条、三二二条)により排除する旨の決定を宣し右証拠調の請求を却下したことは所論のとおりである。しかるに職権を以て調査すると、右供述調書の供述者は、いずれも、第一審の公判廷において証人として喚問されながら事件に関する事項につき証言を拒絶し供述をしなかったものであることが記録上窺い知るに十分である。そして、刑訴三二一条一項二号前段の規定に「供述者が……供述することができないとき」として、その事由を掲記しているのは、その供述者を裁判所において証人として尋問することを妨ぐべき障害事由を示したものに外ならないものであって、裁判所に証人として喚問されながら、その証言を拒絶したような場合は、供述者の死亡した場合と何等選ぶところはなく、同条同項同号にいわゆる供述者の国外にいる場合に比すれば一層強き意味においてその供述を得ることができないものであるから、同条同項同号前段により、その検察官の面前における供述録取書面を証拠とすることを妨げないことは、夙に当裁判所大法廷の判例とするところである(判例集六巻四号五八四頁以下参照)。果たして然らば、検察官より前示供述調書につき刑訴三二一条一項二号により証拠調の請求があった場合においては、裁判所は、弁護人から異議があってもこれが証拠調を許容すべきものであること多言を要しない。しかるに本件第一審裁判所が前示のごとくこれが証拠調の請求を却下したことは違法であって、論旨に対し判断を与えるまでもなく、刑訴四一一条一号により原判決並びに第一審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。
しかし、職権を以て調査すると、本件公訴事実中物価統制令違反並びに同幇助の事実は、原判決があった後昭和二七年政令一一七号大赦令一条八七号により大赦があったので、刑訴四一一条五号、四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三七条三号により主文二項のとおり免訴すべきものとし、また、刑訴四一三条本文により被告人鶴山菊治郎、同杉村三郎、同清水平五郎に対する収賄事件を主文三項のとおり差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 入江俊郎)